パリ珍道中 ⑤

これからメトロに乗って、ギャラリーラファイエットの前に出ることになりました。その裏手にある、モガドール劇場に用事があります。世界的なヴァイオリ二スト五嶋みどりさんのコンサートを聴きに行く事になったのです。
メトロでは先頭車両に乗り、周囲に気を配りながら持ち物を身体にピタッとさせていましたが、視界に気になるグループが目に入りました。極彩色の洋服に身を包んだ黒人のお母さん達です。眩しい水色に真っ黄色のターバンを巻いていました。ジプシーだね、と後輩が囁きます。目が鋭くてギラッと光った様に見えました。何故か私が睨まれた気がしました。小さな心臓がキュンとしました。それから目的駅に到着し、慌てて降りました。留学生達は身の用心の為か、とにかくとても歩くのが早いです。小走りに着いて行っても、どんどん先に進んで行きます。あっと言う間に改札を抜けて、地上に着きました。迷子にならないように、それだけで精一杯で、待って待ってーと心の中で叫びながら、華やかなデパートの前を通ると、さっき見た様な極彩色の洋服を着た集団が目に入りました。
一瞬目を取られましたが、留学生グループを見失いそうになり、人混みに紛れ混んでやっと抜け出たら、広場で合流出来ました。息を切らしてもう、みんな歩くの速いよ、といい、ハンカチを出そうとポーチに手をやるとファスナーが全部空いていました。あれ⁇と思いながら探るとスペースが広い感じがしました。ポーチを手に取りハンカチを目視で探しましたが、何か無いのです。⁇⁇⁇何が無い⁇財布が無い。え⁇財布が無いよ。ポケットに入れたっけ⁇コートのポケットを確認しても無い。ズボンに入れた⁇ない。もう一つの手提げ袋に違いないと、手提げ袋を探しましたが、無いのです。初めてギョッとして、財布が無い…と留学生グループに言うと、皆ええー⁈と仰天し、もう一度よく探してみて、と言われ、足を止めて全ての持ち物を探しましたが、やはり財布がありませんてした。さっきメトロの回数券を出して改札を通り、それから財布はポーチに入れたのです。ファスナーもちゃんと閉めて開けっ放しにはしませんでした。そういえば、ラファイエットの前を歩いている時、カバンに微かに力がかかったような感じはありましたが…まさか…⁈スられたのか?⁇何が起こったのか訳が分からなくなりました。財布が無くなったのです。この時点で、まだ何処かに入れ間違えたのかと、もう一度カバンとポケットを探しましたが、無い物は無い。スリに遭ったのです。足がガクガクして、とにかく速く日本の保険会社に電話をせねばと、公衆電話に走りました。時刻は19時ですが、盗難の緊急連絡なので24時間対応でした。不幸中の幸いで、クレジットカードは後輩宅に置かせてもらっているトランクの中に隠したのでしたが、何とも悲しい事に、、この日しかないとお土産を買うつもりで、飛行機での有り難い助言をすっかり忘れて、分散したお金を集合させていたのでした……
幾ら入れていたのか⁈と後輩に詰問されて、150ユーロくらい…と言ったら、目をひん剥かれました。留学生はそんなに持ち歩かないのが常識なのでしょう。保険会社にシティバンクのカードを入れていたことを伝えて、直ぐに無効にして貰いました。クレジットカードを入れて無くて本当に良かった。しかし、現金は戻って来ません。
我が身が哀れです。泣きたくても泣けません。泣いても戻って来ません。思わず後ろを振り返りましたが、夕刻の雑踏が煙たいばかりです。
何故か私がスられたのです。日本人6人も居たのに…プロにはにわかフランス滞在者が臭うのでしょう。何処でやられたのか。肩から斜めに掛けているカバンのファスナーを開けて、本命だけさっと選んで消えたのです。
また馬鹿な失敗ですが、飛行機のお兄ちゃんは、肩掛けカバンもウエストよりも上に保持しなくちゃダメだよ、と助言してくれていたのでした。この日に限って、お金を集合させてしまい、この日に限って、何故かカバンのヒモをオシャレに下げていたのでした。
そんなものです。

安佐北区 ピアノ教室 可部 長西 純子ピアノ教室